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⑤ なぜPMIで「わかっているのに進まない」状態が生まれるのか?

  • hitoshi yoshida
  • 2 日前
  • 読了時間: 6分

更新日:1 日前

PMIの初期段階で、

「内容としては理解できる。

でも、どうにも乗り切れない」

そんな空気が、場に漂うことがあります。


戦略や方針の説明を聞いて、

「言っていることは分かる」。

反論したいわけでもない。


それでも、

前に進むエネルギーが湧いてこない。


この「わかっているのに進まない」状態は、

理解不足や抵抗感だけでは説明できません。


PMIの場で、

特定の扱われ方が積み重なったときに、

構造として生まれます。



1. 内容が良いほど議論が終わってしまう理由


PMIの初期に、

新しい戦略や方針が説明される場面では、

次のような言葉を耳にすることがあります。


「方向性についてすでに整理したものをお見せしますので、

意見があれば出してください」


多くの場合、

それは誰かが良かれと思って丁寧に整えた、

出来栄えの良い計画です。


筋も通っているし、

未来につながりそうにも見える。


そのため、

表立った異論は出てきません。


しかしその裏で、

・口を挟む余地がない

・いまさら何を言えばいいのか分からない

という感覚が、

静かに共有されていきます。


とくに、

経営陣や親会社など、

立場が上の人間から提示された場合、

現場側は無意識に様子を見る姿勢になります。


計画は正しくも見えるし、

あえて何も言わないことが、

その場では無難な選択になってしまうのです。



2. 理解はされている。でも、肯定とは違う


PMIの進行を、

経営側から見ると、

次のように映っていることが少なくありません。


・戦略として大きな破綻はない

・良い未来につながる道筋だと考えている

・大きな反対も出ていない


そのため、

現場を励ますつもりで、

こんな言葉が選ばれます。


「簡単な状況ではありませんが、

この方向で進む必要があると考えています。

ぜひ力を貸してください」


前向きな意思表示であり、

一緒に乗り越えたいというメッセージです。


しかし現場では、

この正しさが、

別の形で受け取られてしまうことがあります。


・これまでやってきたことは、

結局ダメだったということなのか

・自分たちは、計画も実行もできなかった

無能な側だと言われているのか


理解していることと、

自分の過去や努力が

尊重されていると感じられることは、

同じではありません。



3. 反論はない。でも、動き出さない理由


戦略や方針が「正しい」からこそ、

表立った反論は出ません。


技術的な質問や

事実関係への問いには、

経営側も丁寧に答えている。


場は落ち着いています。

混乱もありません。


それでも、よく見ると、

・表情が硬い

・どこか釈然としない顔が残っている

・議論の熱が上がらない


そんなサインが見えてきます。


理解はされている。

しかし、動くためのエネルギーが生まれていない。


これが、

PMIでよく見られる

「わかっているのに進まない」状態の正体です。



4. 説明が終わったと「扱われた」瞬間に起きること


多くの場合、

説明そのものが不足しているわけではありません。


むしろ、

・もう説明は十分だ

・あとは実行のフェーズだ

という空気が、

早い段階でつくられます。


その結果、

違和感があっても、

それを言葉にする前に、

議論が先へ進んでしまう。


説明は終わっている。

反論もない。


しかし、

納得しきれない感覚だけが残る。


このとき、

現場の沈黙は、

納得の表れではありません。


「これ以上、この場で扱わない」

という選択に近いものです。


こうして、

「わかっているのに進まない」状態が、

PMIの構造として固定されていきます。



5. 「進まなさ」は、PMIの場でどう処理されるのか


厄介なのは、

この「進まなさ」が、

その場では問題として扱われにくいことです。


多くの場合は、

・時間が解決するだろう

・実行しながら調整すればいい

・誰か(多くはミドル)が

引き取ってくれるだろう


という整理がなされます。


判断としては合理的に見えます。


しかしこの時点で、

進まなさは、

どこかに預けられたまま

温存されるのです。



6. 表に出なかった違和感は、すでに共有されていることがある


PMIの初期段階でよく見られる、

「戦略や方針の内容は理解されているのに、

実行が進まない」状態は、

後から突然生まれるものではありません。


多くの場合、

それはすでに場の中に存在しています。


ただ、

表の議論では、

言葉になっていないだけです。


会議の場では発言しなかった人が、

休憩中の雑談では、

「みんな、そんな風に思っているんじゃないですかね」

と口にすることがあります。


ここで重要なのは、

その発言が反論ではない、という点です。


自分の感じている違和感が、

場の中で

共有されているものなのかを、

そっと確かめているだけです。


議論の場に戻ったとき、

その違和感は再び表には出てきません。


しかし、

消えたわけではなく、

言葉にならない共有感として、

場の中に残り続けます。


その状態が積み重なったとき、

人は、わかっていても、

動けなくなります。



7. うまく進んだケースの決定的な違い


一方で、

同じくらい厳しい戦略でも、

現場が動いたPMIがあります。


そこでは、

戦略の中身そのものよりも、

向き合い方が違っていました。


議論の中心にあったのは、

次のような問いです。


・なぜ自分たちは、

この方向性を自力で生み出せなかったのか

・なぜ思いつかなかったのか、

あるいは徹底してやり切れなかったのか

・だからこそM&Aが起き、

新しい経営が入ってきたのではないか


耳の痛い問いです。


しかしそこから、

・新しい戦略は、過去を罰するためのものではない

・これまで築いてきた価値があったからこそ、

さらなる成長や顧客価値の拡張が構想されている


という再解釈が生まれます。


ゼロから始めるなら、

新しい会社をつくればいい。


それでもこの会社が引き継がれたのは、

積み上げてきたものが、

確かに評価されたからだ、

という整理です。


その理解が共有されたとき、初めて、

「この改善とセットなら、自分たちはできる」

という感覚が生まれ、


新しい戦略への

主体的なコミットが始まります。



わかっているのに進まない。


この状態は、

戦略が間違っているから

起きるのではありません。


「わかっていること」として、

あまりにも早く整理されすぎた結果、

違和感を扱う余地が

失われてしまうことで生まれます。


理解と実行のあいだには、

必ず言葉にならなかった感情や、

問われなかった意味が残ります。


それを扱わないままでは、

PMIは静かに止まり続けます。

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